第2章
柏木敬司の顔色がめまぐるしく変わり、最終的には何でもないかのように笑って見せた。
「俺の彼女、古風だからさ。お前の誘いに乗るわけないだろ」
私が古風だから、きっと礼儀正しく断るはずだ。彼はいつも、私のことをそう決めつけていた。
アルコールが血中を駆け巡り、私の反抗心に火をつける。
私はそっと浅田駿之介の手のひらに自分の手を重ねた。
「いいですよ。あなたと行きます」
柏木敬司の表情が瞬時に凍りつく。彼は顔をこわばらせ、私と浅田駿之介の間を視線が行き来した。
浅田駿之介は軽く眉を上げ、笑みを浮かべると、私の手をそっと握りしめた。
バーの入口まで来た時、柏木敬司が追いかけてきた。
「待てよ!」
彼は嘲るように言った。
「どのホテルに行くかくらい教えろよ。ゴムでも差し入れてやるからさ」
私は足を止め、振り返って冷静に彼を見据えた。
「結構です。別れた元カノのプライベートまで気にかけるなんて、少し卑屈すぎませんか?」
私は少し間を置いて続けた。
「申し訳ないですけど、そういう未練がましい態度はあまり好きじゃないんです」
そう言い放つと、私は自ら浅田駿之介の手を引いてその場を離れた。後に残された柏木敬司は、苦虫を噛み潰したような顔で立ち尽くしていた。
浅田駿之介の車に乗ると、何とも言えない解放感があった。
「浅田先輩、今日は助けていただいてありがとうございます」
私は沈黙を破り、運転に集中する彼に視線を向けた。
「駅で降ろしてもらえますか?」
浅田駿之介の視線は前方の道路に注がれたまま、口角だけが微かに上がった。
「後輩ちゃん、あいつらに嘘をついた結果、どうなるか知ってる?」
私ははっとして、無意識にスマホを取り出しサークルのグループチャットを確認した。
最新のメッセージが目に飛び込んでくる。
「今夜はちょっと刺激的なゲームをしようぜ。嘘をついた奴は一生不幸になる。仕事はうまくいかず、良縁は途絶え、金運は永遠に尽きる! 近くの神社でおみくじ引いてきたから、これは神様公認の罰だぞ。神様は裏切れないからな!」
私の心臓がどきりと音を立てた。
神社の近くで育った私は、この手の呪いに人一倍敏感だった。
車が駅の前でゆっくりと停車する。
「降りなよ、後輩ちゃん」
浅田駿之介はハンドルから手を離し、平坦な声で言った。
「たかだか一生不幸になるだけだ。大したことじゃない」
私は下唇を噛み、指が知らず知らずのうちにシートベルトを強く握りしめていた。
一生、仕事はうまくいかず、良縁は途絶え、金運は尽きる。それはまるで、人生の悪夢の始まりを告げているかのようだった。
私が動かないのを見て、彼は身を乗り出し、私のシートベルトを外そうとした。
「降りません」
私は彼の手を押しとどめた。自分でも驚くほど、その声は固い決意に満ちていた。
浅田駿之介は一瞬、虚を突かれたようだった。狭い空間で、彼の気配が急に近くなる。顔が触れそうなほどに。
彼は尋ねた。
「どういう意味?」
「あなたと、寝たいです」
その言葉が口から飛び出した瞬間、私は後悔した。
浅田駿之介の表情はまず驚きに染まり、それからすぐに平静を取り戻した。彼はゆっくりと距離を取り、その声は冬の風のように冷ややかだった。
「だが、俺はしたくない」
車内の空気がまるで凝固したかのようだ。
顔が熱くなるのを感じ、今すぐにでも穴があったら入りたい気分だった。
一生不幸なら、それでいい。一生なんて短いものだ。すぐに過ぎ去ってしまう。
「すみません、私、少し飲み過ぎたみたいで。浅田先輩に失礼なことを……」
私は俯いて謝罪し、自分の声が少しでも気まずく聞こえないように努めた。
私への返答は、車のドアロックがかかる音だった。
浅田駿之介は再び車を発進させた。そのスピードは先ほどよりも明らかに速い。
「すみません先輩、本心じゃないんです。本当に先輩に対してそんな気は一切ありませんので」
私は再び謝罪し、この気まずい雰囲気をどうにか和らげようとした。
車内の温度は、車のスピードと共に下がっていくようだ。私たちの間の沈黙は、ますます重苦しくなっていく。
車がようやく一軒のオーセンティックバーの前に停まった時、私はこの息の詰まる空間から一刻も早く逃げ出したいと、ほとんど焦っていた。
しかし、浅田駿之介の声が私を引き止めた。
「忘れるなよ。今夜は、ずっと一緒にいるんだ」
それでようやく私は理解した——本当に体の関係を持つ必要はない。ただ一晩中一緒にいれば、嘘をついたことにはならないのだ。
私は安堵のため息をついた。
バーに足を踏み入れた途端、私のスマホが鳴った。知らない番号からだった。
「もしもし?」
電話に出ると、聞き覚えのある声がした。
「……真緒は今頃どこにいるんでしょうね? 先輩、少しも心配じゃないんですか?」
朝比奈恵の声だ。
「あいつがどれだけ堅物か、俺が知らないとでも? 今頃とっくに寮に帰って寝てるさ」
柏木敬司の声がはっきりと聞こえてきた。「心配いらないって」
私は息を殺し、耳を澄ませた。
「敬司先輩、もしかして彼女のこと、好きじゃないんですか?」
と朝比奈恵が尋ねた。
短い沈黙の後、柏木敬司は答えた。
「まあ、そこまで好きってわけじゃないな」
胸を何かに強く殴られたような衝撃が走り、痛みに息が詰まる。私は乱暴に電話を切った。
